東映アニメーション株式会社
プロデューサー
東 伊里弥
今から2年と数ヶ月前の、2002年春――。
KanonのTV放送が終わってまだ間もない頃だったでしょうか。AIRを劇場作品として企画提案の準備を本格スタートしたのは。もともと東映アニメーションにとって、このジャンルのゲーム作品のアニメ化はそれまで例が無く、Kanonが初の試みでした。ビジュアルアーツ/Key原作の魅力とその可能性に確信を得た私は迷うことなく、これまで一緒にお仕事させて頂いたフロンティアワークス・及川武氏と、第2弾プロジェクトの実現に向けて歩みだしました。原作元のビジュアルアーツさんに企画提案をしつつ、私自らもAIR世界の全貌をあらためて体感すべく、多忙な仕事の合間を縫いつつ、ゲーム画面に向かい合う日々が続きました。
攻略本も見ずにようやくストーリーを全てクリアした所で、私は二つの相反する思いの狭間に立っていました。かつて無いほどの郷愁と感動に満ちたこの物語をなんとしても映像化したい!という強烈な願望。その一方でストーリーの難解さ、ゲーム特有のキャラ設定とインナーな世界観をわずか90分程度の尺で、しかもマスをターゲットとした劇場作品にするにはあまりにリスクが大きいのでは、という少なからぬ不安感。しかしながら程なく、この心の葛藤は決着を見ることになりました。私自身が何よりもこの作品に対して強く感じた二つの要素、泣きたくなるほどの郷愁に満ち、人間の五感の記憶を呼び起こす「夏の匂い(風景、想い出)」。そして、時には喜びを、時にはうっとうしさを、時には悲しみを、そして運命的ともいえる温もりを携えた人と人との「絆」。この二つを突き詰めることさえ出来れば、原作AIRは「劇場アニメ」という姿に昇華させることが出来るはずでは、と。これまでゲームを知らなかった層にも、きっとその原作の魅力をわかってもらえる、そう確信しました。
かくして、原作元より正式な映像化許諾を受け、製作がスタート出来る日に備えて、スタッフ集めを開始しました。
2002年の暮れ、内々で中村誠氏に脚本依頼をした私には、いささかの迷いもありませんでした。Kanonでシリーズ構成・脚本をやって頂いた彼こそは、誰よりもゲーム原作の特性をしっかり把握し、そのテイストを壊さずにアニメ作品としての劇場版AIR、という約90分の物語に見事に編みなおしてくれると確信していました。
スタッフ集めにおいて私が一番悩んだのは監督でした。通常の30分物TV(本編尺が正味20分強)と違い、90分という長尺の劇場作品を、アニメーションという表現方法で、幅広い観客層を飽きさせずに、感動にまでもってこれるだけの底力を持った監督は、実は数える程しかいません。そこで私は、やはりKanonでプロデューサーとして作品の成功の為にご尽力頂いた横田守氏に協力を仰ぎ、業界内での驚くほど幅広い彼の人脈を活用させて頂くべく、キャラクターデザイン候補とともに監督候補探しをお願いしました。
やがて年が明け、2003年の春――。
いずれ劣らぬ実力を持ったキャラクターデザイン候補が徐々に現れてきた中で、横田氏から思いもよらぬ吉報が届きました。
とんでもない大物監督が掛かった、もとい、是非ともやってみたいと大変興味を示しているというのです。その監督は、横田氏にとっても私にとっても憧れを通り越した偉大な存在であり、私自身がこの世界に入る大きな引き金を引くことになった人物でした。極めて個人的で申し訳ないですが、「エースをねらえ!」「ガンバの冒険」等々の数多くの傑作を私はビデオが擦り切れるほど何度も観、常に元気を頂いてました。1本太い芯の通った説得力を持ち、独特の演出技法を駆使し、華麗さと迫力に満ちた映像を創り続けている……彼こそは出崎統氏その人だったのです。5月下旬、吉祥寺駅前のルノアールにて初めて出崎氏とお話しさせて頂き、私はこの企画実現への大きな勇気を手に入れることになりました。その後、出崎監督、中村氏、横田氏らと幾度となくディスカッションを繰り返すことになりました。そして……。
9月下旬。遂に原作元から契約OKのお返事を頂きました。そこから、正式な構成・脚本作りが急ピッチで進められ、何度か原作元とのやりとりを経て、無事決定稿となったのは11月18日。偶然にも、出崎監督のHappy Birthdayでした。
その後、ようやくキャラクターデザイン候補が全て出揃い、原作元に確認をとりました。そして12月末、選ばれたのが小林明美氏。私は彼女と仕事をご一緒させて頂くのは初めてでしたが、キャラ・オーディション時に彼女があげてきた、ニュアンスの異なる2つの絵柄に驚かされたのを覚えています。原作キャラクターからイメージを膨らませる豊かな想像力と広いキャパシティを感じさせてくれるものでした――。
2004年春。各パートの製作スタッフが徐々に決まっていく中で、監督から上がってくる絵コンテも、後半のクライマックスシーンに向けて次第に強烈なオーラを放ちつつあります。来るべき劇場公開日に向け、アニメ製作現場、宣伝・営業現場ともにこれからテンションはますます上がっていくことでしょう。
さて、今回の劇場版AIRがどんなメッセージを持っているかは、ご覧頂きましたみなさんそれぞれが自由に感じていただければと思います。かつてみなさんが、そして私も原作AIRに接して自由に素直に感じ、涙したように。
ただ、私自身が原作のテイストの中で強く感銘を受けた二つのエッセンスはしっかり映画の中に盛り込んでいきたいと思っています。先にも述べましたそれは、「夏の匂い(風景、想い出)」と「絆」です。四季折々の豊かな季節感を抱けるのは日本人ならではだと思います。それ故、移り行く季節に生の喜びと同時に儚さ、輪廻を感じ、自分の生きた証を季節ごとに「想い出」として刻み込む。特に「夏」という節目は強烈でしょう。そう、季節とは、人の一生における出会いと別れの連続でもあり、それゆえに人と人との「絆」を強く意識するのだと思います。それは時には家族であったり、お友だちであったり、大切な人であったり……。
私たちにとってこの二つのエッセンスは言わば生きていくために必要な「温もり」であり、時代を問わず、明日を生きる元気に繋がるはずでは、と私は強く信じています。
まだ先の話にはなりますが、皆さんは劇場をご覧になったらどうお感じ頂けますでしょうか?私たち製作スタッフが無事に作品を完成させ、劇場公開まで何とかこぎつけた時には(笑)、是非とも感想をお聞かせ下さいませ。
いずれにしましても、皆さんからの暖かいご声援を宜しくお願い致します!
■東 伊里弥 プロフィール
1963年1月19日生 東京都出身
1986年 東映動画<現 東映アニメーション>(株) 入社
「銀牙〜流れ星銀〜」「聖闘士星矢」等の製作進行を経て、企画営業部に
▽AP担当作品
「魁!!男塾」「ビックリマン」 「新ビックリマン」 「魔法使いサリー(新)」
「もーれつア太郎(新)」 「きんぎょ注意報!」 「キャンディキャンディ(劇場)」
▽ PD担当作品
「美少女戦士セーラームーン」 「美少女戦士セーラームーンR」
「美少女戦士セーラームーンS」「キューティーハニーF」
「アニメ週刊DX みぃファぷ〜」 「神風怪盗ジャンヌ」 「勝負師伝説 哲也」
「Kanon」 「スーパークマさん」(ANIMAX第1回シナリオ大賞作品)
